エピソード

  • 関税シグナルをどう解読するか
    2025/05/28
    グローバル債券・公共政策戦略担当責任者のマイケル・ゼザスが、モルガン・スタンレーのジャパン・インベスター・サミットでお客様から最も多く寄せられた米国の政策に関する質問にお答えします。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。グローバル債券および公共政策戦略担当責任者のマイケル・ゼザス 本日はグローバル債券および公共政策戦略担当責任者のマイケル・ゼザスが、モルガン・スタンレーのジャパン・インベスター・サミットから得られた主な要点について解説します。このエピソードは5月28日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。先週、私は東京で開催されたジャパン・インベスター・サミットに出席しました。主な投資テーマに関するパネルディスカッションや、モルガン・スタンレーのあらゆる拠点のお客様との一対一ミーティングが二日間にわたって行われました。サミットの間にモルガン・スタンレー・リサーチは経済および市場戦略の年央見通しを公表しました。言うまでもありませんが、この48時間で投資戦略を巡って活発な意見交換が行われました。どのような質問が最も多く寄せられたかをお伝えし、そしてもちろん、これらの質問への答えについてもお話ししたいと思います。もうお分かりだと思いますが、米国の関税政策が主な注目点でした。関税は再び引き上げられるのでしょうか?それとも最悪の時期は過ぎたのでしょうか。もし過ぎたのであれば、投資家は米国経済についての懸念をいったん忘れてもよいのでしょうか?これは込み入った問題なので、われわれの答えには微妙なニュアンスが入ります。一方、現在の関税政策は、われわれが考えていた年末時点の状況とほぼ一致しています。関税率の引き上げが予想よりもずっと早い時期に行われただけです。米国の関税が全面的に引き上げられ、中でも中国に対する関税率が相対的に高くなっています。他の国々と比べて中国とは妥協点が少ないため、中国との貿易交渉で迅速に合意を形成するのはより困難です。つまり、現状が終点ということかもしれません。しかし、投資家にとってこのような考え方は単純すぎるでしょう。第一に、現在行われている交渉の一環として関税率が今の水準からさらに引き上げられる可能性は十分あります。また、それがたとえ一時的だったとしても、市場に影響が及ぶでしょう。第二に、恐らくもっと重要なポイントとして、米国政府がこのほど中国に対する関税率を非常に高い水準から引き下げ、実効関税率は下がったとはいえ、依然として年初の水準を大幅に上回っています。このため、投資家は市場の見通しを立てる上で関税の圧力を考慮しなければならないでしょう。弊社のエコノミストは関税の影響で今年は経済成長が鈍化し、リセッションリスクが上昇するとみています。もう一つの主な懸念材料は米国の財政政策です。選挙公約通りに赤字縮小への道を歩み始めるのでしょうか、それとも税制・歳出法案が議会を通過し、赤字縮小は実現しないのでしょうか。投資家にとってこれは来年の最も重要な注目点であると思います。来年以降どうなるかは憶測の域を出ないからです。われわれは来年度に財政赤字が減少するとは予想していません。減税期限を延長し、新たな減税措置をいくつか導入すれば、歳出削減で一部相殺されたとしても、来年に赤字は多少拡大するでしょう。また、利払いの増加など、予算に織り込まれたその他の要因によって赤字はいっそう膨らむとみています。これらの2つの質問が寄せられたのは無理もありません。その答えが市場の見通しに極めて重要だと思うからです。特に、われわれが市場見通しの中で強調した見解を理解する手がかりとなります。例えば、米国の経済成長が他国よりも減速し、それに伴い外国人投資家が自国通貨建て資産の比率を増...
    続きを読む 一部表示
    7 分
  • Midyear U.S. Outlook:株式市場は一歩先を行く?
    6 分
  • Japan Summit 2025: 消費者の回復力と貿易の不確実性
    2025/05/21
    モルガン・スタンレー・ジャパン・サミットから生放送で、弊社エコノミストが、変化する日米・日中貿易パートナーシップを踏まえ、日本経済と日本株の見通しについてお話します。トランスクリプト 中澤:「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。モルガン・スタンレーMUFG証券の日本株ストラテジスト、中澤 翔と申します。李:モルガン・スタンレーMUFG証券のプリンシパルグローバル・エコノミスト、李 智雄です。中澤:本日は東京で開催されているモルガン・スタンレー・ジャパン・サミットから生放送でお届けします。世界の経済成長という観点から日本についてのわれわれの見解をお伝えします。また、二大貿易相手国である米国と中国に対する日本のポジションについても考察します。このエピソードは、5月20日 火曜日午後3時に東京にて収録されたものです。中澤:李さん、私たち2人はこのサミットで大勢の投資家と話をしてきました。対話を通じて、いま最も印象に残っている議題は何ですか?李: そうですね。やはりトランプ政権の政策に関するご質問が最も多い印象です。相互関税率が当初発表された内容よりは緩和されたものの、依然として高い関税率であることは間違いないわけで、それが米国経済、そして日本を含めた世界経済に与える影響に関してのご質問が多かったです。もちろん、日本経済に関しましてては外需が重要ですが、一方で内需の堅調さに関してご指摘すると同意してくださるお客様も多かった印象です。李:中澤さんの会われたお客様からどのような話が聞かれましたでしょうか?中澤:投資家からは、米国の関税政策の不確実性を踏まえたポジショニングの考え方であったり、日本特有のカタリストでありますガバナンス改革を巡る投資戦略についての照会が多い印象です。特に足もとでは、親子上場の解消に対する関心が高まる中で、次の親子上場解消の候補は誰だろうか、という点に高い関心が集まっている印象です。中澤:世界経済の年内の見通しについて投資家の見解は李さんの見解と一致していましたでしょうか?李:そうですね。関税及び政策の不確実性によって各国貿易や投資活動がマイナスの影響を受けるという点に関しての見解は概ね一致していました。特に投資への影響が懸念で、1980年代の元連銀議長バーナンキ氏の論文にもあるように、不確実性は投資行動を遅延させるわけです。ただし、その不確実性がどれだけ投資行動にマイナスの影響を与えるのかという程度、感応度に関しては、温度感が違う印象もありました。中澤:なるほどですね。短期的、長期的に米国の関税は日本を含むグローバル経済にどれほど影響をするでしょうか?李:そうですね、グローバル経済といえば貿易や投資を通じて世界経済にマイナスの影響を与えることはもちろん重要なのですが、やはり重要なのは米国経済に与える影響かと思います。関税は米国の消費者および企業にとって税負担となるわけで、例えば2018年には物価への影響も多少はありましたが、それよりも企業の生産活動や雇用活動に大きなマイナスの影響を与えました。問題は今回の関税率がそれよりも高いため、物価や経済に与える影響がより大きいと考えられます。特に連銀は一旦は関税による物価上昇があるため2025年中は利下げが難しく、逆に利下げが可能となる2026年にはかなり大幅な利下げが必要になるとわれわれは考えています。李:日本の株式市場は米国の関税措置に対してどのように反応しているでしょうか?中澤が答えます:4月2日に米政権が相互関税を発表してから、急速に内需・非製造業へのセクタースキューが進行しました。足もとにかけては、一部の国で関税交渉の進展がみられまして、外需型製造業の買戻しが進んでいます。ただ、弊社アナリストがカバーする約500銘柄の範囲で、関税の影響が比較的大きい銘柄、小さい銘柄で構成したスクリーニングの対TOPIX累積超過リターンをみますと、関税に対して相対的に脆弱な銘柄のパフォーマンスは悪化したままとなっています。今後、関税交渉の進展に応じて、セクタースキュー...
    続きを読む 一部表示
    8 分
  • 米中貿易問題の緊張緩和後も残る市場リスク
    2025/05/19
    関税をめぐる米国と中国の緊張緩和を市場は好感しましたが、長期的にはどんな結果が生じうるのでしょうか。この点を深く理解するために、弊社のチーフ債券ストラテジスト、ヴィシー・ティルパターが今回の相場上昇を掘り下げます。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。チーフ債券ストラテジストのヴィシー・ティルパター 本日はチーフ債券ストラテジストのヴィシー・ティルパターが、米中で先ごろ合意された相互関税の90日間の一時停止のインパクトと、それが景気と市場にもたらす影響についてお話します。このエピソードは5月19日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。5月12日の発表に対する市場の反応は非常に好意的でした。いわゆる「解放の日」を受けて4月に急落したS&P500指数は、今回の発表後の4営業日で4.5%上昇し、年初来のリターンもプラスに戻っています。社債市場も上昇しました。投資適格債のスプレッドは10ベーシスポイント超、ハイイールド債のスプレッドは50ベーシスポイント超タイト化しています。米国債市場では2025年の利下げ幅の予想が50ベーシスポイント縮小し、市場が示唆する2026年末までの利下げ幅はおよそ100ベーシスポイントとなっています。こうした市場の動きも重要ですが、本当に重要なのはこうした情報をつなぎ合わせて大局をつかみ、今回の貿易問題の緊張緩和が何を示唆しているかを解明することです。そしてそれ以上に重要なのは、何を示唆していないかを把握することです。まずプラスの面としては、緊張緩和により、貿易の荷動きが急に止まったり失業率が急上昇したりするリスクが低下することが考えられます。これが「休戦」にすぎないことは明らかで、世界の2大経済大国間の関税率が最終的にどのような水準になるのかは正確には分かりませんが、125%や145%に近い水準にとどまる恐れはかなり遠のいたと考えてよさそうです。そのため総じて言えば、米国が景気後退に陥る可能性もこれを受けて低下しています。念のため申し上げますが、2025年の景気後退入りは弊社の基本シナリオでありませんでした。しかし今回の緊張緩和により、経済成長率が若干上振れ、インフレ率が若干下振れ、そして失業率がおおむね現状維持となる方向にリスクがシフトしています。「解放の日」以前は上下どちらにも触れる可能性があり、確率が半々だったとすれば、現在もまだ上下いずれにも振れる可能性はあるものの、景気の縮小ではなく拡大方向に傾いている状況です。弊社はそもそも景気拡大を予想していましたので、今回の緊張緩和を受けて基本シナリオへの自信を深めています。米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を年内は据え置くという確信も強くなっています。ただ、スイス・ジュネーブでの米中協議からはポジティブな印象が感じられるものの、90日間の相互関税停止で不確実性が払しょくされるとはとても言い切れないことを強調しておきたいと思います。貿易問題による緊張は高止まりする公算が大きいでしょう。トランプ政権はまだ医薬品、半導体、銅、およびその他の製品への関税を調査中です。米中間の交渉の方法が他の地域、特に欧州との交渉で機能するかどうかも定かではありません。それに、中国やそのほかの国々からの輸入品に米国がかける関税率がおおむね現在の水準に落ち着くことになるとしても、今年の初めに比べればおよそ 約4倍の高水準になるのです。したがって、インフレ率は年末に向けて上昇を続け、第3四半期にピークを迎える公算が大きいでしょう。関税によるインフレ率の上昇幅は小さなものになりそうですが、上昇することには変わりありません。それに、景気後退は引き続き回避されるでしょうが、関税の引き上げは経済成長率を押し下げるでしょう。リスク市場については、米中貿易問題の緊張緩和により、大規模な...
    続きを読む 一部表示
    7 分
  • 米中貿易問題の一時停止:次は何が起きるのか?
    2025/05/12
    週末に貿易の緊張が緩和したことを受け、株式市場は大幅に上昇しました。弊社の最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンは、市場の最悪期は去り、株価は底打ちしたと前向きにみています。今回は、その理由を解説します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソン, 今回は最高投資責任者兼米国チーフ株式ストラテジストのマイク・ウィルソンが、株式市場の視点から最近の関税交渉についてどう考えるべきかについて解説をします。このエピソードは5月12日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。週末に米中貿易交渉は予想以上に進展し、わずか1ヵ月前に始まった貿易問題に関する緊張緩和で合意しました。投資家から寄せられている主な質問は、この最初の合意を信用すべきかどうか、そしてこれが最終的に持続可能なものかどうかです。私の目から見ると、この質問は株式投資家にとってより重要なポイントを見逃がしています。言うまでもなく、株式市場は未来を材料に取引するものなのです。従って、確認すべきは、6ヵ月後に状況が多少なりとも不透明になっていると思うか、そして状況は改善するか、それとも悪化するか、ということです。もう1つ考慮しなければならない点は、株式は成長率の二次導関数、つまり変化率に基づいて取引されるということです。この点に関しては、株価と最も相関する傾向にある変数の変化率が底打ちした可能性が高いと考えています。もっと具体的に言えば、企業は先週、今年になって初めて利益の大幅な上方修正を行いました。一部では、関税の発表を控え、第1四半期に需要が前倒しされたために利益が予想を上回ったという企業もありました。また、一部の主要企業はドル安のおかげで予想以上の利益を上げました。重要なことですが、米国の多国籍企業にとって為替相場の恩恵は今後6ヵ月、利益への大きな追い風となりそうです。5ヵ月ほど前に懸念していた成長のネガティブ要因の多くが今やなくなりました。ネガティブなセンチメントやポジショニングは「解放の日」がピークでした。株式市場は悪いニュースで底打ちするという格言があります。先月の「解放の日」が最も良い例でしょう。同様に、市場は良いニュースで天井を打つことが多いですが、週末の中国との貿易交渉が予想以上に良い結果だったことが、相場一服につながった可能性が十分あります。従って、このような相場が見られた際には上値追いではなく押し目買いをすべきでしょう。市場は成長にポジティブな政策変更の可能性はまだ消えていないと考え、減税の延長、規制緩和、債務上限問題および来年度歳出予算の決着などに期待するでしょう。最後に、関税率のさらなる引き上げの懸念が和らいだいま、FRBが恐らく先日明らかにした見通しよりも早い時期に利下げする可能性も再び浮上してきました。関税が今後1年間インフレにどの程度影響を及ぼすかは正確には分かりませんが、影響は前倒しとなりそうです。実際、関税が需要に打撃を与え、最終的にディスインフレをもたらすことも考えられます。FRBは秋口にかけてこの結果を判断するとみられ、少なくとも利下げを示唆し始める可能性があります。そうした動きはクオリティの低い循環株へのより持続可能なローテーションにつながり、多くの投資家が6ヵ月前に予想しつつもフライングしてしまったような形でアニマルスピリッツが広がるでしょう。結論としては、厳しい上期と好調な下期というわれわれが当初示した今年の見通しに確信が強まりました。この見通しは、AI関連設備投資の伸びが今年は減速を免れず、政策変更も当初は成長率にネガティブとなる可能性が高いとの見解に基づくものでした。この先は、成長にポジティブな...
    続きを読む 一部表示
    6 分
  • 台風の目
    2025/05/09
    米政権が発表した関税政策に対する当初の反応は治まり、現在市場は落ち着きを見せています。今回は、これが逆風に変わる可能性がまだ残っていることをコーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが解説します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。コーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツ, 現在、市場は落ち着きを見せていますが、これが逆風に変わる可能性がまだ残っていることをコーポレート・クレジット・リサーチ責任者のアンドリュー・シーツが解説します。このエピソードは5月9日 にロンドンにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。市場では先の乱高下が落ち着き、現在は4月2日以降の損失をほぼ取り戻した形です。ではこれで終わりなのでしょうか。発表された関税政策に対する反応とポジション調整は終わったようですが、実体経済に影響が出るのはこれからです。気象で例えれば、今は台風の目の中にいるだけかもしれないと弊社は考えています。関税に対する当初の反応は終わりかけているかもしれませんが、我々は悪天候となる可能性のある具体的な動きに注目しています。ひとつはFRBです。弊社エコノミストは、関税によってインフレ率が高止まりすると予想し、年内の利下げはないと引き続き見ています。しかし、市場はより多くの対応を期待しています。クレジット市場が成長鈍化とFRBによる支援の欠如の両方に直面する事態は我々が最も懸念するシナリオのひとつです。2番目は経済指標です。年明け以来これまでのところ、消費者と企業の期待を測る指標は総じて弱く、その一方で経済活動を示す指標は堅調な傾向です。我々は、期待が先行する傾向があるという証左がこれまでにも多数あったと考えており、それゆえに実際の経済活動が弱まり始めることを懸念しています。関税導入後の期間の経済指標が出始めるためです。このため弊社は出荷やトラック輸送といった指標を注視しています。これらは実際の影響をより正確に映し出す可能性があるためです。経済指標はこれまで持ち応えているとはいえ、我々が懸念する最大の理由はやはり、関税の影響が現れるまでには一般的に時間がかかることです。弊社エコノミストが述べているように、歴史的に見て、関税が実際に物価を押し上げるまでには2、3カ月、成長率が低下するまでには2、3四半期かかります。つまり、関税の影響という嵐はまだ過ぎ去っていない可能性があります。インフレに対する弊社の見方もこれと同様です。インフレを楽観し、したがってFRBによる利下げを期待する人々は、直近のコアインフレ率は概して良好だと主張しています。しかし、弊社エコノミストは関税による物価への影響はまだ公式なデータに反映されていないだけだと懸念を強めており、理論的に関税の影響を最も大きく受けるはずの財などのコアインフレ率にほとんど変化がみられないことを強調しています。つまり、我々の見るところ、FRBが注目している基礎的な指標に影響が現れるのはこれからだといえます。米国の関税政策の発表に対する当初の驚きはすでに過ぎました。状況は落ち着いたように見えます。そして、最近の経済指標は比較的堅調です。これは単純に米国経済の底堅さを示しているというのがひとつのシナリオです。しかし、この関税政策に対する驚きと、それによる経済への最終的な影響には時間差があるというのがもうひとつの解釈です。我々はこの影響が実際に生じることを懸念しており、そのため成長率が低下し、インフレ率が上昇し、FRBによる利下げが市場のコンセンサスよりも後ずれすると予想しています。クレジットスプレッドが平均を下回っている現在、忍耐が必要でしょう。こうしたスプレッド水準を前提とした予想が、市場の混乱につながる可能性があります。最後までお聴...
    続きを読む 一部表示
    6 分
  • 韓国は高齢化を支えられるか
    2025/05/01
    弊社韓国・台湾担当チーフ・エコノミストのキャサリン・オーが、韓国で最近可決された年金改革法案と急速に高齢化が進む韓国社会への影響について解説します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。韓国・台湾担当チーフ・エコノミストのキャサリン・オー 今回は弊社韓国・台湾担当チーフ・エコノミストのキャサリン・オーが、韓国の「人口非常事態」と、政府が最近の年金改革でこれにどう対処しようとしているかについて再び解説します。このエピソードは5月1日 に香港にて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。去年 昨年秋のポッドキャストで、危機的レベルに達した韓国の人口問題についてお話したことを覚えている方もいらっしゃるかもしれません。韓国は2024年末、65歳以上の高齢者の割合が人口の20%を超え、正式に超高齢社会になりました。急速に高齢化が進み、出生率が過去最低となったことを受け、韓国はようやく断固たる方針を決定しました。国会は先ごろ、国民年金法の改正に向けた画期的な年金改革法案を可決しました。年金法の抜本的な改正は18年ぶりです。年金財政の持続可能性を改善し、今後も加速の一途をたどるとみられる急速な高齢化に備えることが改革の目的です。法改正では、保険料率を引き上げるほか、所得代替率も43%に引き上げます。年金基金が枯渇する時期は現在、2064年とされていますが、上振れシナリオでは改正によってこれを2071年に先送りすることを目指しています。改革を行わなければ、年金基金はわずか30年後の2055年に資金が枯渇してしまうでしょう。この改革を行えば、年金基金の枯渇時期を遅らせることができ、金融資産を売却せずにすみます。年金受給者のために将来の年金資産の安定性を確保することにもなります。また、金融市場への投資の幅が拡大し、より高いリターンにつながる可能性があるということも、これまで挙げた点に劣らず重要なことです。今回の改革は、超高齢社会の現実に対応するための法律改正であり、ひいてはより構造的な改革に向けた第一歩です。また、年金制度、雇用市場、教育制度、資本市場などの抜本的な改革アジェンダの幕開けでもあります。中道左派の韓国民主党と保守系政党「国民の力」が党派を超えた支持と国民の総意を得て合意に達することができたという点でも、今回の年金改革は注目に値します。ここ最近の揺れ動く国内政治情勢を考えるとなおさらです。とは言え、年金改革が経済にネガティブな影響をもたらす可能性もあります。保険料率が上がれば世帯の可処分所得が減り、消費と貯蓄の合計額に、弱いながらもさらなる下押し圧力がかかるでしょう。特に年を重ねるにつれて消費が減る傾向にあることを踏まえると、民間消費の構造的減速につながるとも考えられます。高齢化に伴う課題を抱えているとは言え、我々は、韓国の将来については慎重ながらも楽観的な見方をしています。このところ出生率が持ち直していることが最大の理由です。出生率は2015年から毎年低下していましたが、2024年に0.75へと上昇に転じました。理想的な人口置換水準である2.1をまだはるかに下回っていますが、これは小さいながらもポジティブな兆候です。この先、出生率が2030年までに1.0以上に大きく持ち直すようにしなければ、労働人口は今後40年で50%減少するとみられています。一方、年金改革法案にさらに修正が加えられることが予想され、経済分野の次の課題である雇用市場改革と共に定年年齢の引き上げについて議論が展開されると弊社ではみています。政府による人口政策アジェンダの執行は今後も続くとみられます。最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェア...
    続きを読む 一部表示
    6 分
  • 原油市場は景気後退を警告しているのか
    2025/04/29
    グローバル・コモディティ・ストラテジストのマーティン・ラッツが、値動きの大きい現在の原油市場と、予想される年内のマクロ経済シナリオについてお話します。このエピソードを英語で聴く。トランスクリプト 「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)へようこそ。このポッドキャストでは、最近の金融市場動向に関するモルガン・スタンレーの考察をお届けします。グローバル・コモディティ・ストラテジストのマーティン・ラッツ本日はグローバル・コモディティ・ストラテジストのマーティン・ラッツが、原油市場の不確実性と予想される年内の相場展開についてお話します。このエピソードは4月29日 にニューヨークにて収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は、概要欄に記載しているURLをクリックしてください。現在、エネルギー転換が進んでいるにもかかわらず、世界のエネルギーシステムの土台は依然として原油市場です。そして原油市場で最も重要な価格はブレント原油価格です。従って、原油価格の変動は、ガソリンスタンドのガソリン価格を当然気にする平均的な消費者だけでなく、さまざまな産業やセクターに多大な影響を及ぼす可能性があります。これを念頭に、世界の原油市場で最近何が起きているのか考えてみましょう。今月に入りブレント原油価格は急落し、わずか2営業日で終値が1バレル当たり75ドル前後から65ドルへと12.5%下落しました。下落の主な要因は2つありました。1つ目は、トランプ政権による相互関税の発表をきっかけに始まった貿易戦争が、世界経済ひいては原油需要にどのような影響を及ぼすかという懸念です。2つ目は、貿易戦争に伴い原油需要の不確実性が高まっているにもかかわらず、OPECが供給の拡大ペースを加速させ、5月の計画増産の実施を決めただけでなく、予定していた6月と7月の増産分を5月に前倒ししたことです。GDPの見通しが悪化しているときにOPECが増産すれば、これが原油価格の重荷になることは予想がつくでしょう。ではこれは何を意味するのでしょうか。2日間で12.5%下落することはめったにありません。ブレント原油先物市場が1988年に創設されて以来、これほど大きな下落を記録したのは24回だけで、そのうち22回は景気後退と同じ時期でした。このため、最近の相場下落を景気後退が迫っている兆候ではないかと指摘するコメンテーターもいます。現在、ブレント価格は直近の安値からやや持ち直していますが、足元の貿易懸念や景気の展望、OPECプラスによる原油供給の拡大見通しを反映する形で相場はなおも非常に荒い値動きとなっています。ここ数週間ですでに投機筋が異例なまで大量の売りを仕掛けています。従ってこれを踏まえると、原油価格は当面持ちこたえるのではないでしょうか。しかし、それでも年内にさらなる逆風が吹く可能性があると考えています。弊社は基本ケースのシナリオで、前年比の需要の伸びが今年下期までに日量約50万バレルに減速すると予想しています。今年に入って公表した当初予想は日量約100万バレルでした。需要鈍化とOPECプラスの増産に伴い、原油市場は年末まで日量約100万バレルの供給過多になる可能性があります。こうした見通しを鑑みると、ブレント価格はいずれ60ドル台前半までさらに下落することも考えられるでしょう。とは言え、もっと弱気なシナリオも考えてみましょう。景気後退期に原油需要が継続的に増加したことは一度もありません。このため、関税と報復関税の影響で景気後退入りすれば、原油需要の伸びはゼロに落ち込む可能性もあります。そのような状況では、弊社が現在モデルで推計している供給過剰幅は大幅に拡大し、日量150万バレルを超える可能性があります。その場合、市場の需給を均衡させるにはOPEC非加盟の産油国はもっと大幅に増産ペースを落とす必要があるでしょう。このシナリオでは、供給を必要な水準まで減速させるために、ブレント価格は50ドル半ばまで下がる必要があるかもしれません。その一方で、弊社も市場も需要の影響を過大評価している強気のシナリオもあります。原油需要が現在予想しているほど...
    続きを読む 一部表示
    7 分